パニック障害は覚醒ホルモンの障害か

2009年12月28日
NIMH(アメリカ国立精神衛生研究所)サイエンスニュース

脳の覚醒回路に作用するホルモンの暴走がパニック障害の原因になっているとする研究発表があった。このホルモンはオレキシンと呼ばれ不足するとナルコレプシーと呼ばれる睡眠発作障害を起こすと言われている。研究ではこのホルモンが多すぎるためにパニック障害が起きているのではないかとしている。パニック障害は現在アメリカに600万人いる。

「オレキシンホルモン系を調べれば、新しい抗不安剤の開発に結びつくかも知れない。人間とねずみ間の移転可能な実験により良い結果出た」とアメリカ国立精神衛生研究所の所長であるトーマス・インセルは言う。

アメリカ国立精神衛生研究所の助成を受けているアナンサ・シェカー等が、2009年12月27日”the journal Nature Medicine”のインターネットサイト上にこの研究を発表した。研究では、オレキシン遺伝子の表現を抑制したり、その遺伝子受容体を抑制すると、ねずみのパニック障害反応が起きなかった。またパニック障害の患者ではオレキシンレベルがかなり高い事も分かった。

背景
オレキシンは別名ヒポクレチンと言われ、視床下部から出る回路だけに分泌されるホルモンで覚醒と報酬に関連している。無害な乳酸ソーダをパニック障害患者の体に注入するとパニックを人工的に起こすことが出来る。この物質をパニック障害のねずみに注入すると人間同様のパニックを発生させることが出来ることから、ねずみの覚醒回路に何らかの変化が起きたと研究では考えた。乳酸ソーダはパニックを起こし易いねずみのオレキシン分泌神経細胞を活性化するが普通のねずみには変化を起こさないことから、パニック障害がオレキシン系に由来していると推測した。

実験の結果
この研究はオレキシン分泌神経細胞中の遺伝子表現の増加がパニック発作に関連していることを突き止めた。そしてRNA干渉と呼ばれる技術を使ってねずみにパニックを起こし難くすることにも成功した。RNA干渉とは遺伝子工学を使ってオレキシン遺伝子のスイッチをオンにしない技術である。
オレキシン受容体を抑制する薬でも同様の効果が見られた。この実験結果は従来パニック障害治療に使われているベンゾジアゼピンの効果に似ている。
ナルコレプシーの過剰な眠気の原因は、覚醒回路にあるオレキシンを分泌する神経細胞の欠損が原因であると10年前に分かった。しかし今回の研究ではオレキシンと睡眠との関連性はつかめなかった。

更に53人の患者の脳脊髄液を調べ中に含まれるオレキシンの量を測定した。するとパニック障害だけの患者はパニック障害と鬱状態を両方持つ患者よりオレキシンのレベルが高かった。

結論
オレキシンホルモン系の過活動がパニック障害の発生に関わっていた。

次の目標
パニック障害治療薬としてオレキシン受容体を抑制する薬物の開発。



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