境界領域者の脳の違い

アメリカ国立精神衛生研究所 サイエンスアップデートから
2008年10月2日


境界領域者の脳では、灰白質の違いが感情をコントロールする回路の不全につながっていると研究があった。境界領域患者では、脳の恐怖の中枢に灰白質が過剰に存在し、恐ろしい顔を見ると強く反応した。それに比較して、脳の前部にある恐怖の中枢をコントロールする部分では灰白質の量が少なく、活動が不活発であった。結果的に恐怖反応の暴走を許すことになったのだろうと専門家は推測している。

今回の研究は、脳スキャン技術を用いて境界領域者の脳を調べ、その機能障害を画像で捉えた最初のものになった。同じ構造上の違いは既に神経症者の脳でも発見されていて、境界領域の症状も神経症と同じ生物学的欠陥により起きているのだろうと研究は報告している。

境界領域者の精神病院の入院患者に占める割合は20%にもなり、アメリカの大人の1.4%にあたる。彼等の症状は、少しでも拒否されたと感じると怒りが爆発的に発生し鬱と不安が伴い、症状は数時間に及ぶ。このため患者は仕事場でも家庭でもトラブルを起こし、危険で強迫的行動に走る。自分を切りつけたり火傷させたりの自傷行為は頻繁にあり、自殺完遂率は10%に及び、75%の患者は少なくても1回の自殺を試みている。

2005年5月10日にアメリカ国立精神衛生研究所が、神経症者の前帯状皮質(anterior cingulate cortex)は、健康な脳のそれより灰白質が薄く、神経細胞とその連結も弱いと既に発表しているが、同じ構造的問題が境界領域者の脳にも起きているのを示している。

実験では、12人の健康な人と12人の境界領域者の脳をfMRIを使って調べた。被験者には恐怖する顔、怒った顔、普通の顔を見せてその反応を見た。その結果、境界領域者は恐怖する顔に扁桃体が過剰に反応したのに対して、前帯状皮質の活動は鈍かった。健康な人では前帯状皮質の活動が活発になり、扁桃体の過剰反応を抑えるから、境界領域者ではこの活動の違いが感情のコントロールの障害につながっていると研究は推測している。

研究では、解析MRIを使って同じ患者と健康な被験者の脳を更に詳しく調べた。fMRIを使った実験結果と同じように境界領域者では扁桃体の灰白質は厚く、前帯状皮質の灰白質は薄かった。これは境界領域者では、感情をコントロールする脳の中枢で、神経細胞の数とその構築に異常があることを示している。この異常はセロトニン神経伝達システムにも影響を与えている。


MRI映像
境界領域患者の脳では前帯状皮質の灰白質の密度が著しく低い。前帯状皮質とは写真の右に黄色に光っている部分で、この部分は感情の中枢(その下)をコントロールしている。


MRI映像
境界領域の患者では扁桃体(感情の中枢)の灰白質の密度が著しく高い。
赤く輝いている部分が扁桃体。


fMRI映像
境界領域の患者では、恐怖する顔を見た時、前帯状皮質(一番右でオレンジに輝いている部分)の活動が健康な人に比べて不活発であった。



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