2005年5月10日 |
ある種の遺伝子が不安を処理する回路を弱めて、神経症や鬱病の原因を作るのでは無いかと最近研究発表があった。鬱病と関連があると見られる遺伝子の変異体(gene variant)を持つ人では、灰白質(gray matter)が少なく、感情をコントロールする回路(mood-regulating circuit)の連結が弱くなっていた。発表では、この回路の連結具合で、およそ30%の不安症状を説明できると言う。以下はダニエル・ワインバーガーの率いる研究チームが、2005年5月8日のNatureNeuroscience誌のインターネット版に書いた報告である。 「ある遺伝子に注目して脳スキャンの画像を調べていたら、感情をコントロールする回路を発見して、それを調べると、脳はオーケストラのように動作しているのが分かりました。そこで、次のような疑問を発っして見た。『バイオリンとクラリネットはユニゾン(同じメロディー)を弾いているのだろか。この演奏に遺伝子はどの程度関与しているか』と。結果は扁桃体と帯状回は鬱に関連すると思われる遺伝子の指揮棒の下にデュエットを奏でていたのです」をワインバーガーは言う 遺伝子とはセロトニン搬送体(serotonin transporter)の作成コードを所持している遺伝子である。セロトニン搬送体とは、脳の中でセロトニンと言う神経伝達物質のリサイクルを受け持つ蛋白質で、シナプス中にセロトニンが発射された後に、セロトニンを回収する役目をする。現在、最も多く処方されている抗鬱剤であるSSRIは、この蛋白質を抑制する。だから短いDNAを持つ遺伝子が、人の不安感情にどれほど影響するか今まで研究されて来た。 我々はこの遺伝子のコピー2つを持つが、その各々を1つずつを両親から受け継ぐ。この遺伝子には長いものと短かいものの2種類の変異体がある。短い遺伝子は、セロトニンのリサイクルを受け持つ蛋白質を少し作るから、結果的にリサイクルの効果が落ちて、セロトニンのシナプス中のレベルは増加する。そしてセロトニン由来の細胞の活動を増大させる。アメリカ精神衛生研究所の今までの発表によると、短い遺伝子を持つ人では、ストレスを受けると扁桃体が過剰に反応し、鬱状態を引き起こし易く、神経症的性格を作りやすいのが分っていた。しかし脳の回路においてどうなるのか、説明出来なかった。 アメリカ精神衛生研究所は、最初、114人の健康体の脳のMRIスキャンを取り調べた。短い遺伝子変異体を1個持っている人では、2個の長い変異体を持っている人に比べて扁桃体と帯状回を結ぶ回路の灰白質と神経細胞が少なく、連結が弱かった。 次にfMRI(functional magnetic resonance imaging)を使って94人の健康体の脳に恐ろしい顔を見せ、恐怖の回路がどれほど活性化するか、脳の活動をモニターした。結果は、短い遺伝子を持っている被験者はこの回路の機能が弱いのが分った。被験者の30%で、危険回避値がこの回路の強弱で説明出来た。危険回避(harm
avoidance)とは神経症の遺伝的特性である。 脳科学ニュース・インデックスへ |