統合失調症と白質の変化


2007年4月24日

統合失調症の原因は脳の白質不全が主因であろうとの研究発表が行われた。2007年4月の第4週にアメリカ科学アカデミーの会報としてインターネット上に発表されるが、今まで発表された中で最も明確な形で白質不全を統合失調症の原因として取り上げている。今回の発表では、今までに統合失調症発症に原因があるとされていた20個程の遺伝子の内の2つを具体的に調べて、それらが白質変性の原因として発表している。

今までは、脳成長因子であるニューレグィン1(neuregulin 1)の遺伝子と脳の受容体erbB4の遺伝子が統合失調症に関係しているのでは無いかと疑われて来たが、これらの遺伝子の変異が統合失調症を起こす具体的証拠が見つからなかった。しかし、ボストン小児病院神経生物学プログラムのガブリエル・コーファ、クリスチーン・ロイ、ジョシュワ・マーティー等により、NRG1-erbBの発信に障害が起きると、脳の白質に病的変性が起きるのを初めて実験で示した。この白質の変化は生化学的信号の変化となり、統合失調症を示唆する行動の変化となって現れる。

 注:ニューレグィン1(NRG1)はerbB4受容体を使って脳の成長に影響を及ぼす。

「脳の白質に変化があると、統合失調症に似た行動をするようになる。今回の実験により、統合失調症に対する考え方が変化し、治療の可能性が出てくる」と実験主任であるコーファ氏は言う。

躁鬱病でもNRG1と白質の変性が疑われているから、躁鬱病の原因に関する考えにも影響を与える

今回のネズミを使った実験では、オリゴデンドロサイトのNRG1-erbBの発信を妨害すると、発信を妨害されたネズミはより多くのオリゴデンドロサイトを形成し、しかもオリゴデンドロサイトには分枝が少なかった。その為に、神経線維の周りのミエリン絶縁体の形成が極めて薄く、神経繊維の信号伝達速度が低下していたと発表している。所でオリゴデンドロサイトとは、グリア細胞の1つでミエリンと呼ばれる神経線維を覆う絶縁体を形成する細胞である。脳の白質とはミエリンに覆われた神経線維が集まった部分を指す。

又、ネズミのドーパミンに関わる神経細胞も変化していた。ドーパミンは神経伝達物質の1つで、メッセージを細胞から細胞に伝達する役割している。統合失調症ではこのドーパミン系の異常が発症の原因では無いかと長く疑われていて、治療薬はこの部分に焦点を当てている。

「脳の白質が変化するとドーパミン系のバランスが狂う。同じ事が統合失調症でも起きているのでしょう」とコーファ氏は言う。

NRG1-erbBの発信を妨害されたネズミは、最終的に行動の異常を示し始めた。行動範囲が狭まりネズミ同士の社会性も減少した。これは行動が萎えて引き篭もる陰性の統合失調症に似ている。更に不安を示し環境に敏感になり、躁鬱病にも似通っていた。

NRB1-erbBの信号異常を薬で改善したり、オリゴデンドロサイトを守って統合失調症を治す薬は出来ないであろうかとの質問に、コーファ氏は次のように言う。「そこを調べています。多発性硬化症の治療に考えられている白質の治療法が、統合失調症にも応用できるのではと考えています。統合失調症の多くは思春期後期に発病し、最初は軽い認識異常と動きに問題が発生する。だから統合失調症の症状が出る前に白質の変化が現れるかどうかを調べて、もし変化が現れるなら、その段階で診断が可能だし、予防措置も講じられるかも知れない」。

白質の変化が統合失調症に関係があるなら、統合失調症の発症時期が思春期後期であるのもうなずける。最近の研究では、前頭前野皮質のミエリン化(神経線維がミエリンで絶縁化される事)は幼児期ばかりでなく、思春期後期にも起きているとしているから、その時期と統合失調症の発症時期が一致している。

「我々はもう一度統合失調症の患者の脳の白質を調べて、NRG1や erbB4の遺伝子変異が実際白質に影響を与えているかどうかを調べる。NRG1や erbB4以外の遺伝子の変異からも統合失調症が起きている可能性もあるので、それも調べる」とコーファ氏は語る。



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