危険な欲望

最近偶然オゼンピックという肥満治療薬の効果を知り神経症に応用できないかと考えることが多いです。われわれはテレビを見ていて、あるいは直接アメリカに行って彼らの肥満の程度を見て言葉を失う。
私がハワイのホテルの待合室で見た白人男性は動けないのか椅子に座ったままだった。見ただけでこれは酷いと感じる肥満で、まさに化け物の領域で彼の体重は300kgを超えるのではないか。何でこんな事になるのだろうかと私は長年考えて来た。

最近のオゼンピックのニュースから異常肥満の原因は単なる体質ではなくて過度の食欲によるものと分かって来た。一見普通に見える人が昼夜を問わず食べ物ばかり考えている。しかもその食う量が普通の3倍とか5倍でこれではあの巨大な肥満も当然だ。私は今まで肥満とは体質で、食べた栄養が燃やされることが少なく脂肪に蓄積させるからこうなると考えていたがそれは間違っていた。

肥満症の脳では空腹の言葉が乱舞していて、彼らを引きずりまわす実態が次第に見えて来た。丁度不潔恐怖の人が一日30回もシャワーを浴びたり、一日100回も手洗いをする強迫状態と同じだ。この強迫脳、暴走脳がオゼンピックを飲んだらピタリと止まったと言うからすごい。オゼンピックの薬効メカニズムはこれから習う事にして神経症治療をここから学びたい。

神経症の治療意欲もすごく肥満症の異常食欲を凌駕するものがあります。私なんか16歳のある日から48歳のある晩まで30年間毎日神経症をどうするか考えっ放しであった。これは精神状態としては異常であるから48歳の時点で事実上生活は崩壊していた。この異常な治療意欲を一刻も早く停止させないとならないのに、それを言う心の病の医療はないに等しい。

既存の情報はむしろ神経症者に同情的で、対人恐怖を治して社会に復帰しましょう、異性恐怖を治して幸せな結婚を目指しましょうになっている。これでは強迫状態の神経症者を更に追い詰めてしまう。森田療法などは「神経症者の望みは生の欲望であるから実現しないとならない」と更に煽っているのだから話にならない。

神経症者の欲望とは今すぐにでも停止するべき欲望で、かなり深刻で危険な欲望なのです。恐怖に追い詰められた神経症者はそれから脱出しようと必死で、しかもこの努力が更に事態を悪化させているのが分からない。丁度アル中の人がぐでんぐでんになっても飲酒が止まらないように、神経症者の欲望暴走も止まらない。人間の脳は意外ともろく、一度バランスが狂うとトコトン底なしになってしまうらしい。

神経症とはこの危うい人間の脳が引き起こす症状の一つなのです。私は神経症にもオゼンピックのような薬が開発されて神経症者の強迫的欲望が止められたらどれほど救われるかと何時も思っていますが、現状ではそのような薬はない。

そこでどうするか。アル中を治すのにアルコールを飲みながら治せないように、神経症でも治療を求めながら治療欲を止める事はあり得ないのです。神経症者の日常では「こうしたら神経症が治る」の解決手段が強迫的に登場しますが、それを否定して治療を考えない生活を開始すべきなのです。

これは言うは易し、実行は大変な困難であります。脳からは神経症を治せの命令がやんやの出っ放しになっているし、足元は強迫観念により切り崩されている。でもこれをしなければ神経症者の人生は崩壊してしまいます。



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