不安する脳 4 しかし、最善の方法は、子供自身が自分の恐怖に立ち向かいながら学び育つことであろう。次の例は何が良いか自分で到達した例である。「何年もの間、僕は不安におびえていました。でも恐怖をそのままにしていてよいことが分かったのです。例えばワシントンで炭素菌騒ぎがあった時、胃がキリキリ痛み始めました。でもこの強烈な不安は自分の過度に不安になる性格にあると思った。以来、胃の痛みは消えました。自力で不安地獄を脱出できるようになりました」と13歳の子供がエッセイで書いている。同じような経験したのはこの子供ばかりではないはずだ。 恐怖にさいなまれている子供には専門家が介入を試みる。一種の認知行動療法で、去らない不安を合理的に説明して普通の不安に置き換える方法で、ある意味で一般の人が普通やっている方法である。 「今考えていることはあまり意味が無いと笑ったらいい。でも意味が無いと考えることを恐怖してしまうのです。だから厄介で普通の人にはなんでもないことが私には大変なのです」とグループブログである” We Worry”に若い女性のブリタニーが書いている。 でも普通の人でもじっと考え込んで動けなくなる場合がある。「私は臨床心理学の友達に、不安に駆られた時にどうしたらいいのかと聞きます」とウィリアムカレッジのエンジェルは言う。彼女は“Red Flags and Red Herrings.”と言う気質に関する本を書いている。彼女によれば、彼女も彼女の長男と同じように大変気をモムほうだと言う。「私達は物事を時間のはるか前に終わらせる癖があります。締め切り期限が迫る不安に耐えられないのですね。飲んでごまかして先に延ばすようなやり方もあるでしょう。でも私達のやり方は不安を利用して結果的に良いのでは」と彼女は言う。 「このように環境に順応する方向で不安を処理するやり方はどちらかと言うと知能の高い人に多い」とハーバードのスティーブン・ピンカーは言う。イギリスの専門家が2004年に発表した”心配性は仕事に成功するか”の論文では、投資会社の管理職を調査している。この調査によると不安を感じやすいタイプの管理職の方が良い仕事をしていた。 フォックスは、不安に強く反応をする人が不安症を避けられるかどうかは容易ではないと言う。協力的家族や友人がいれば解決するとか、メリーのように自分が得意とするバレーに打ち込めば解決すると言うような問題と違う。どうも恐怖に対処できる人と出来ない人にはある種の生理学的違いがあるようだ。19番の赤ちゃんの場合は成長するにつれて事態が悪化している。彼女は13歳の時に既に大変不安を感じる子であり、中学に入る頃には鬱状態を経験し、十代で対人恐怖の診断を受けている。 彼女はfMRIの装置の中で見知らぬ顔を見ると、扁桃体の活動が普通の人の3倍も活発になった。驚くのは、通常心配性の人の前頭前野皮質は厚くなっているはずなのに、彼女の前頭前野皮質が薄かったのだ。 「前頭前野皮質は感情の爆発を抑える働きがある。彼女の場合、前頭前野皮質が薄かったから扁桃体の爆発を抑えられなかったのだろうか。一つの可能性として、前頭前野皮質と扁桃体に関わる遺伝子がハーモニーを保っているかです。19番の赤ちゃんはの場合はハーモニーを保っていなかったから問題が発生した」と彼は言う。 神経症の科学を進めると、何故このような心の苦しみを起こす気質が進化の途上で淘汰されなかったのかの疑問に突き当たる。もちろんこの気質には有利な面もあり、何時も警戒している性格だから集団を守る役割には適している。しかし、個人のレベルではあまり不安過ぎて異性には逃げられるし、神経をすり減らして生活が困難になる。 現代の社会では内向的性格、即ち十分な警戒、自己内省、孤独に強い等は貴重な資質だ。ケーガンの観察によれば、強反応グループは慎重で麻薬に走らず、セックスも控えめで運転も安全であった。彼等はテレビ番組シリーズに出てくる、フェリックス・アンガーを地で行く人達なのだ。 強反応グループの人達は不安症にさえならなければ、良心的で強迫的とも言えるほど仕事、勉強に集中する人達なのだ。待ち合わせには時間より早めに行き、スピーチには念入りな準備をする。 ケーガンはハーバードで40年間働いていたがその間に200人に及ぶ研究スタッフを雇った。「私は強反応グループの人を研究スタッフに雇いたい。彼らは強迫的ではあるが、間違いが少なく大変慎重に仕事をする。宇宙飛行士を選択するとすれば弱反応グループの人が最適で、地上でコントロールする人達は強反応グループの人が良い」とケーガンは言う。 不安気質は名誉ある気質でもある。今の社会は内気は良くないとする傾向があるが、この人達こそが物書き、芸術家、科学者に適している。ケーガンはT. S.エリオットが神経症であったのを忘れない。「エリオットは典型的強反応の人で”私には手に負えない恐怖があるのだ”の一節には緊張と不安がほとばしっている」とケーガンは言う。 ケーガンの発表はあまりに一方的だの批判する向きがあるかも知れない。例外はいくらでもあり、多分気質にも数百の違った種類があるのであろう。この研究ではわずか2つの気質しか調査していないから、強反応グループの子供が大きくなって不安症を発症すると結論するのは少し乱暴である。 我々は不安の強い子が神経症になると予想するのでなく、どうそれを回避出来るかを考えるべきだ。今まで分かったことは、強反応の子供が快活で大胆な大人になるのは難しいと言うことだ。シルビア・プラスは確かにビル・クリントンのようにはならないが、詩人になる可能性がある。 19番の赤ちゃんについては生まれ持った気質を大きく変えるのは難しいだろう。大学の成績は良いが何時も陰気で内省しているように見える。今も心配性だし将来も心配性であろうとケーガンは言う。 1 2 3 4 脳科学ニュース・インデックスへ |